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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(オ)147号 判決 1949年11月08日

主文

原判決中上告人敗訴の部分を破毀する。

本件は大阪高等裁判所に差戻す。

理由

上告理由は、末尾に添えた別紙記載の通りである。

上告理由第一点について。

原判決は、係争宅地八十九坪の売買が、宅地建物等価格統制令第二条に違反するかどうかを判断するためには右宅地を含む売買物件全部の代金四万円の中右宅地の価格が占める比率によつて算出される金額を代金と見て判断すべきであるとし、更に右比率が百分の二十二であることは当事者間に争がないとして、右金四万円に百分の二十二を乗じて算出される金八千八百円を右宅地の代金と認むべき旨を判示した。しかしながら右判断は次の理由によつて誤である。すなわち、原審の昭和二十三年九月十七日附口頭弁論調書(記録一五五丁)及び控訴代理人提出の同日附準備書面(同一五三丁)の記載によれば、控訴人(被上告人)は、前記宅地の昭和二一年二月七日当時の時価が一坪につき最低九十円最高百十円平均百円程度であること、及びその八十九坪分八千九百円の前記総代金四万円に対する比率が百分の二十二程度にあたることを主張し、被控訴人(上告人)は右主張事実を認める旨の陳述をしたことが明であるが、これでは只該宅地の時価が八千九百円であることが争なかつたことがわかるだけである。百分の二十二程度云々というのは右八千九百円が本件売買代金額全部の四万円の百分の二十二程度に当るという算数上当然のことをいつたに過ぎないので本件売買における該宅地の現実の売買代金が右四万円の百分の二十二であるというのではない。そして現実の売買代金が常に時価と一致するものと限らないことは勿論だから、原審は証拠其他によつて該宅地の現実の売買代金が時価と一致するものであることを確定しない限り、右争ない事実からは本件宅地の売買代金額が四万円の百分の二十二に当るとの結論は出ないわけである。売買は当時の時価によることが普通であるかも知れないが、当事者の時価の不知其他特別の好悪特種の事情により時価より安く或は高く売買されることは決して稀とはいえない。特に本件のように目的物中に統制価格あるものを含む場合は、当事者が統制価格にかかわらず時価により売買をなしたものとたやすく推断すべきではない。したがつて、原審がこの点につき何ら説明を加えることなく漫然と、右売買物件全部の代金四万円に前記比率百分の二十二を乗じて算出される八千八百円を以て右宅地の代金と認めたのは其根拠を欠くもので理由不備の違法あるを免れない。

よつて、他の論旨に対する判断を省略し、民事訴訟法第四〇七条第一項の規定に従い、主文の通り判決する。

この裁判は、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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